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歯磨き文化はお釈迦さまの昔から

わが国では、歯ブラシ以前には房楊枝(ふさようじ)が江戸時代末まで一般に使用されていた。その房楊枝はどのようなもので、どのような経緯をたどって使用されるようになったのであろうか。

インドのインダス河流域を中心とする地域には、世紀前二五〇〇年ごろから、青銅器をもつインダス文明が栄えた。

当時のこの地域における口腔衛生についての文明はどうであったか、その記録はインドの大医といわれたスシュルタが書いた『スシュルタ本典』にある。スシュルタは仏教の祖、釈迦(世紀前五〇〇〜六〇〇)と同時代の人である。

この医学書には、歯磨きの木が出てくる。

「朝早く起きて歯を磨け。歯を磨くには、新しい虫食いのない木を用いる。その長さは指の幅一二本分ほどで、小指の太さくらいの節のない灌木(かんぼく)を用いる」

これは仏教経典に書かれていた歯の清掃法とほとんど同じであって、インドでは一般に歯磨きに使う灌木は、ニーム(ニンバ)の枝が用いられた。

仏教経典の中ではこれを「歯本(しぼく)」といい、梵語(ぼんご)ではダンタ・カシュタという。ダンタは歯を意味し、インド数学では、人間の永久歯の金歯数と同じ三十二を現すという(中国仏典では、憚多家瑟託(だんたかしゅった)と音訳され、歯本または楊枝と義訳されている)。

わたしが昭和一八年(一九四三)第二次世界大戦時に駐屯していた南アンダマン島の住民たちは、朝起きると家の周りの生垣(いけがき)の木の枝を折り、その端を噛(か)んで房状にして、何もつけずこれだけで歯を磨いていた。

これがニームの木で、私も使ってみたが青くさく、渋味があった。

『スシュルタ本典』には、歯磨粉についても書かれている。歯磨粉を梵語(ぼんご)でダンタ・シャーナ(浄歯粉)と呼んだ。次のように、当時すでに歯磨剤も用いられていた。

「蜜やある種の粉本(不明)で作った糊粉(こふん)を歯木につけ、歯肉を傷つけないように歯を磨けば、不快な口臭や歯の汚れを落とすことができる」

釈迦は、口腔内を歯木(しぼく)で清掃することによって、五つの功徳(くどく)(利益)があると教えた。

一つは口中の臭気を除く。ニつには食物の風味がよくなり、三つには口中の熱を除き、四つには痰(たん)を除き、五つには眼がよくなる」

古代インドでは歯の清掃を一日二回、朝夕に行う習慣があった。ことに仏教徒にとっては、このことは釈迦の教えとして、富貴な者も賤(まず)しい者も、守らなければならない戒律(かいりつ)の一つであった。

参考:歯の風俗誌 長谷川 正康

 

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