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「おはぐろ」の化学

お歯黒の有効論議

お歯黒の化学的研究については多数発表されている。「おはぐろ」がむし歯の予防に有効であるとする説をあげれば、次のようになる。

○お歯黒をすると、歯の痛みをふせぎ、歯牙を健全強固にする。(青山青嶂氏説)

○お歯黒液には殺菌性があり、細菌の発育を抑え、むし歯の進行を阻止する。(弘山秀直氏説)

○お歯黒した歯のそろっている江戸時代人の歯にはまったくむし歯がなかった。(河越逸行氏報告)

○お歯黒液に浸した歯牙のエナメル質(琺瑯質(ほうろうしつ))表面はわずかに腐食されるが、これによってエナメル質表面の耐酸性が増した。(清野晃氏説)

相三衛(あいさんえい)氏はこれらの説を考察し、総合してお歯黒液を基礎とした新しいむし歯予防の材料フッ化ビスマス塩を創製したことを、「おはぐろに関する研究」と題して発表した。

この予防材は黒くはならず、白色でしかも耐むし歯性にすぐれ、エル・アパタイトの名で製品化されている。

以下、相氏の研究を中心にお歯黒とは何かをさぐっていきたい。

お歯黒液の処方

お歯黒液の処方は、各地各家で多少は作り方がちがうが、基本的な材料は同じである。まず茶を沸騰させ、その中に焼いた古釘(ふるくぎ)を入れ、飴(あめ)、麹(こうじ)、砂糖を入れてお歯黒液をつくる。

その量は、茶五合、古釘二十〜三十本、飴五匁(もんめ)、麹五勺(しゃく)、砂糖一勺、これに少量の酒を加えることがある。

これらを壺に入れて、密封して二〜三ヵ月冷暗所に保存する。次第に鉄はさびが出て水は茶褐色になる。また、一種の特有な悪臭があるが味はあまい。

このお歯黒液は、化学的には、水酸化(すいさんか)第二鉄、酢酸鉄(さくさんてつ)、炭酸鉄(たんさんてつ)、硫化鉄(りゅうかてつ)の混合水溶液(こんごうすいようてつ)で、茶を用いるのは、その中にふくまれるタンニン酸と鉄とを化合させるためで、飴、麹、砂糖、酒は、これらを発酵させて酢をつくり、これと鉄とを化学的に結合させるためであると思われる。

しかし、処方の材料の割合、発酵日数、温度などによって成分に多少の変動かおる。発酵日数の少ないときは、含有鉄分も少ないしPHにも変化かおる。

酸性がよく、アルカリ性であると歯に染まりにくい。

焼いた古釘を入れるのは、酢酸のような弱い酸にはそのままの鉄では反応がおそいのて、赤く熟して酸化鉄にすると反応しやすくなるからである。

以上がお歯黒液の製法である。しかし、お歯黒はこれだけでは染められない。この液で「ふしの粉」をつけながら染めていくのである。

お歯黒には「ふしの粉」

「ふしの粉」はウルシ科の落葉小喬木(しょうきょうぼく)のヌルデの若葉や若芽に、アブラムシ科のヌルデノミミフシというアブラムシが刺激してできた瘤状(こぶじょう)の虫(ちゅう)ようを粉末にしたもので、生薬名で五倍子(ごばいし)木附子(きふし)といっている。

六〇〜七七パーセントのタンニン酸をふくんでいる。この「ふしの粉」とお歯黒水を混ぜると真っ黒なお歯黒ができる。したがって、お歯黒を科学的に示せば、タンニン酸第二鉄塩である。

参考:歯の風俗誌 長谷川 正康 著

 

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