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麻酔に使用された植物

a アヘン --- モルヒネ

阿片は罌粟の果実に切傷をつけると出る乳白色の液汁を乾燥したもので、局方のアヘン末(pulvis poii)はこれを均質な粉末としたもので、モルヒネ、コデイン、パパベリン製造原料である。

古代、一杯の植物の汁液が、催眠の功徳をもたらすといわれた催眠飲科は、もっぱら阿片が使われていた。ローマ神話に登場する眠りの神は、手にケシの茎を握りしめている。

眠りの神ソムヌスの召使いにモルフェウスという夢の神様がいた。この名をとってケシの果実から採れるアヘンの効きめを代表するモルフィン(モルヒネ)の名が生まれた。この薬の薬理作用は十分にご存じであろう。

b 歯痛にヒヨス

ヒョスも古代から歯痛に使用されていた植物で、アトロピンと作用がはなはだ近いヒョスチアミンが主成分で、視覚、聴覚の失調、意識不明になる。

また、麻痺作用がある。中国産ヒョス(hyoscyamus niger L)をロート(莨菅)という。

生薬名「莨菅薬」、「莨菅根」の名で知られる「ハシリドコロ」のことで、葉にも毒があるが、主として根茎中にトロパールカロイド(tropaalkaloide 総量〇・二一三%)を含有し、そのうち、ヒョスチアミン (Hyoscyamin)〇・一〇八%、アトロピン(atoroopin) 〇・〇四六%、ノルアトロビン(noratropin)〇・〇三七%、スコポラミン(Scopolamin)○・○○四%を含んでいる。

c 散瞳薬にハシリドコロ

江戸後期、十一代徳川家斉の眼科侍医土生玄碩(はぶげんせき)(一七六七〜一八五四年)は、白内障手術(穿瞳術)に長じ、彼が手術に使用する瞳孔散大薬(散瞳薬)の秘密をシーボルトに教えられたのが、ハシリドコロである。

これは、ヨーロッパ産のアトローパ・ベラドンナと同系統の植物(茄(なす)科)で、この毒性の主成分はアトロピンで、けじめ口渇、瞳孔の拡大、二重視、眩暈(めまい)が現れ、恐怖感におそわれ、アルコール中毒に似た妄想譫語状態に陥り、ついには麻痺と意識不明になってしまう。

このアトローパ・ベラドンナという学名は、もともと美しい婦人を意味するイタリア語=ベラ・ドンナとギリシア神話にでてくるアトローポスという死の女神名からできている。

この二語の結合ははなはだつり合っている。その液汁は瞳孔を開いて、眼に美しさを与えるが、その反面、これが体内に入ると死とつながる恐しい毒草だからである。

d.全身麻酔にチョウセンアサガオ

曼陀羅華(チョウセンアサガオ・白花洋種(しろばなようしゅ)ちょうせんあさがお)が麻酔薬として使用されるのは、茄科の植物で、上記のハシリドコロ=ベラドンナと同様アトロピンやヒョスチアミンを含有しているからである。

中国の名外科医・華佗(かだ)(二一〇年没)は、手術にあたって全身麻酔薬を応用した。この薬は華佗の「麻沸散」として名高く、曼陀羅華を主剤としたもので、スポヨフミン、ヒョスチアミンなどの麻酔成分を含んでいるので有効であったと思われる。

後に、十八世紀後半、紀州(和歌山)の人、華岡青洲(一七六〇〜一八三五年)は外科に秀で、兎唇、尿道結石、脱疸、痔瘻などの手術を行った。

彼が通仙散と称する曼陀羅華とトリカブト(鳥頭(うず))を主剤とした麻酔剤を用いて乳癌の摘出手術を行ったのは有名である。

この麻酔の効力を検定するのに、母と妻を実験台とし、そのため妻の加恵は失明した(文化二年・一八五〇年)。ホーレス・ウェルスの笑気ガス(亜酸化窒素ガス)による抜歯の成功に先立つこと四〇年であった。

e イヌホウズキと毒人参

フフンスの南部アヴヴェル地方に生まれ、モンペリエ、パリ、ボロニアの大学で医学の修業をしたギイ・ド・ショリアクも麻酔性植物を応用した全身麻酔薬を報告している。

ヒョス、曼陀羅華、毒人参、イヌホウズキ(Solanum nigrum)、催眠性ホウズキ(physalis sommifera)などの液汁を海綿に浸し、乾燥、保存し、使用時、海綿を温湯に浸して鼻孔に入れる。

迷朦状態は深く、長かったという。この処方のイヌホウズキは、茄科の植物で、生薬名は龍葵(りゅうき)といい、別名天茄(てんか)ともいう。

利用部は果実、全草であるが、茎に少量のアルカロイドを含み、また種子、茎葉ともサポニンを含有している。

毒人参とあるのは、ヘムロック(hemlock)のことであろう。conium maculatumの学名を有するドクニンジンで、その薬、茎、種子中にコニインという毒を含んでいて、胃腸を荒らし、脈を遅らせ、呼吸も麻痺させる。

古代ギリシアには、このヘムロックを用いた刑があった。有名なソクラテスは、青年を邪道に導いたとの理由からヘムロックを飲まされたという。この毒碗の刑はヒポクラテスの頃かなり行われたという。

参考:歯科の歴史おもしろ読本 長谷川 正康 著

 

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