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知られざる歯の風習

歯にみられる民俗風習

頭の形を人工的に、円錐(えんすい)形や方形などに変形させたり、首に金属をはめて首を長くしたり、皮膚に装飾を加えたりする風習は、古今を通じてひろく世界の各地で行われている。

歯を人工的に変形することもまた、これらに劣らずさまざまな人種の間で行われている。

アフリカや南アジア、オセアニアなどの広い地域の人々の間で行われてきた歯の人工的変形は、歯 牙(しが)を、ことに前歯部にいろいろな加工をするもので、一般に歯牙加工(しがかこう)、または歯牙変形(しがへんけい)の風習と呼ばれている。

だが、その目的とするところは何であろうか。

東京大学教授の鈴木尚氏によると、多くは身体装飾のためであるが、彼らはそれを目分たちの住んでいる土地や種族のシンボルとし、子どもが成人に達した「しるし」に、または既婚者の「しるし」として施(ほどこ)しているという。

さらに、ときには服喪(ふくも)に際しての哀悼(あいとう)の意をあらわすために歯に加工を施すこともあるという。

これらの風習は、わたしたちの想像以上に彼らの社会に根づよく浸透してきたものだが、文明の波によってしだいに消滅しつつあるのは、いずこでも共通の現象である。

歯の人工的変形は、基本的には、飾歯(しょくし)風習、生歯抜(せいしばつ)風習、生歯毀損(せいしきそん)風習、染歯(せんし)風習などに分けることができる。

化石人の不可解な石の球

明治二七年(一八九四)、フランスで古墳より出土したクロマニヨン人種の頭蓋骨二〇個の化石から、これらの頭蓋骨に特有の異常が見つかった。二〇個すべてに例外なく存在する、特定の歯における磨耗である。

この原因について、日本歯科大学教授の山崎清氏は次のように説明している。「この磨耗の現象は、主として上顎(うわあご)の第一大臼歯(だいきゅうし)の部分に強く現れ、第一、二小臼歯(しょうきゅうし)、あるいは第二大臼歯にはわずかである。

下顎(したあご)第一大臼歯にもわずかに現れている。これらの磨耗、粗磨(そま)は明らかに人工的になされたものである。なぜならば、これらの歯牙の頬(ほお)の側面はいずれも頬の軟らかい組織にふれる以外になく、自然の状態ではこの部分に磨耗の起こりよう個ないからである。

しかし、この磨耗の現象は、ある目的をもってなされたものとは考えにくい。前歯部の変形毀損(へんけいきそん)なら、それぞれ人工的とされる理由もあろう。

しかし、このように他人には見られない口腔(こうくう)奥の臼歯の側面の磨耗に対しては、化粧のためとか、装飾的な意義を求めることはできない。

この磨耗はおそらく、何か硬い物質に起因するもので、その硬いものは、歯と頬の粘膜との間に、相当長い時間に、あるいは生涯にわたって保持されていなけばならない。

発掘された同じ場所に、直径二・五センチメートルの平たい円形の小石が四二個集積されているのが発見された。この小石を歯の磨耗している部分に当ててみると、一致することがわかった。

そしてこの小石を当てたまま、わずかずつ動かしてみると隣の歯を磨(みが)くことがわかった」以上から、臼歯部とこの小石との関係があると思われるが、なぜ、このような小石をなめることが必要であったのだろうか。

これに対して山崎氏は、「古代人に多かったとされる歯周疾患(ししゅうしっかん)(歯肉炎(しにくえん)、歯槽膿漏症(しそうのうろうしょう))に対する予防的処置であるのか、その治療をを目的としたものであるのか、さらに、人が飴丸(あめだま)をなめるのと同じに喉のかわきを避け、唾液(だいき)の分泌(ぶんぴつ)を促すために用いたとも考えられる」

と述べているが、これはあくまでも証拠にもとづかない推定であることを強調されている。このような側面の歯が磨耗している例は中国にもあった。

北京口腔医院教授の周大成氏の報告によると、中国新石器時代には、上顎(うわあご)の両側歯(そくし)を抜歯(ばっし)したり、後頭骨の人工変形を行ったりするほか、口の中に球をふくんで、歯牙と顎の骨を変形させる習俗があったという。

参考:歯の風俗誌 長谷川 正康 著

 

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