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養生訓に学ぶ歯の話

“養生訓が,いま静かなブームになっている。この本は三百年前に江戸時代の儒学者 貝原益軒によって書かれたものである。養生訓といえば "接してもらさず"や"食い合わせ"があまりにも有名だ。

養生とは,病後安静にしていることを思い浮かべがちである。しかしこの本,積極的に体を動かし,気をめぐらすことを説いており,単なる健康術の本ではない。益軒は,生来虚弱で病気に苦しんでいたが,健康法を実践したため85歳の長寿を得たのである。

ところで益軒の時代と現在は,共通点が多いことを御存知だろうか?養生訓が出版されたのは,庶民生活が安定した江戸時代中期。それまでは,飢えや戦争のため明日をも知れぬ命であった。天下泰平の時代になり,やっと庶民も老後のことを考える余裕が出てきた。さて現在,生活が豊かになると共に,次々に病気も克服されてきた。そのおかげで日本人の平均寿命は約八十歳,わずか五十年の間に三十年も延びた計算になる。誰もが寿命が延びたぶん,健康で楽しい生活を送ることが出来ると思っていた。

しかし,糖尿病・高血圧などの生活習慣病が急増し,これらの病気がきっかけとなり,老後を寝たきりで過ごさなければならない方が急増している。益軒は,長い人生を健康で楽しむための術を説いていた。これが養生訓がブ−ムとなっている背景なのだ。

さてこの中には,歯や口にまつわる健康法についても述べられており,現代風に解釈を入れ紹介する。"古人曰く「禍(わざわい)は口より出て,病は口より入る」"病は口から入る食物により起こるので,その入口には留意しなければならない。

"歯の病は胃火(いか)ののぼるなり。"歯の病は,胃腸の病と関係が深い,歯が悪いと消化不良を引き起こすと考えられる。"一日に歯を35回,カチカチ鳴らすと,歯の病気にならない。"歯を鳴らすことは,禅宗の健康法であり,歯や歯グキを鍛え,むし歯や歯周病を防ぐのだ。

"つま楊枝で歯の根を深く刺してはいけない。歯の根が浮いて動きやすくなる。"爪楊枝は,当時の歯ブラシである。しかし歯グキに深く入れて傷つけると,腫れて痛むこともある。"朝,ぬるま湯で口をすすいで,昨日から歯にたまっているものを吐き出し,干した塩で上下の歯と歯グキを磨き,温湯で二十・三十回口をすすぐ。

さらに口に含んだ湯を粗い布でこし,お碗に入れる。この塩湯で目を洗うと眼病の予防になる。"ここでは興味あることに,口をゆすいだ湯を目薬の代わりとしている。

唾液には,さまざまな抗菌物質が含まれており,薬のなかった時代の知恵と言える。 "唾液は,身体の潤(うるおい)いであり,変化して血となる。唾液は,吐くな飲み込むべし。"古くから,年老いても唾液が多いと健康であると言われる。

唾液には,老化予防のホルモンが含まれている。また唾液の量が多いことは,消化液の分泌も多く体が若いことを意味している。だから飲み込むことを勧めているのだ。"食後には,お茶で口をゆすぐと良い。

"お茶に含まれる抗菌物質のカテキンが,細菌の増殖を抑え口臭予防にもつながる。益軒が養生訓を著したのは,八十四歳でありながら,一本の歯も失っていない。現在の八十歳で二十本歯を残すという,八○二○運動を軽く達成しているのだ。どうやら益軒に学ぶべき術は,まだまだありそうだ。

おもしろ歯学
http://okazaki8020.sakura.ne.jp/omosiro/omosiro.html
岡崎好秀 岡山大学歯学部 小児歯科 より

 

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